2017年(平成29年)3月28日に、総理が議長となり、労働界と産業界のトップと有識者が集まった会議で「働き方改革実行計画」がまとめられましたが、私はこの年の9月のコラムで“「働き方改革」に思う”と題して、冒頭から、「最近の新聞を読んでいて、目にするたびに嫌な感じがするのが、『働き方改革』と『人づくり革命』です」と噛みつき、最後は「『働き方改革』という政府の号令に右往左往するのではなく、人間として、また企業として、常に改革し成長し続けたいと思います」と結んでいます。
昨年の8月7日と9月4日、サンフォルテ(富山県民共生センター)で行われた富山県主催の「働き方改革推進リーダー養成講座」に参加しました。参加理由は、「働き方改革」が叫ばれて以降に当社で行ったことは、経営企画室の安全衛生管理グループで、第2工事部の技術職のうち、見なし残業代として役職手当がついている主任について、実際の月々の残業時間を4月から統計を取り始めたことくらいでしたので、この講座のタイトルを見て、「働き方改革」を毛嫌いばかりせず、会社のトップリーダーである私自身が学んでみようと思ったからです。
8月7日の「働き方改革推進リーダー養成講座」の1回目には、18の企業と3つの市町村から35人が参加し、5人ずつ7テーブルに分かれ、(株)ワーク・ライフバランス(WLB)の3名のコンサルタントの進行、指導の下に午後1時半から5時まで、テーマごとに付箋に自分の意見を書いて模造紙に貼り付け、メンバーで話し合いながらその付箋をグループ分けしまとめて、テーブルごとに発表しました。参加者は、ほとんどが30歳代からせいぜい50歳代初めくらいまでで、70歳を過ぎ、かつ社長の参加者は私だけでしたが、若い人たちから刺激をもらいました。
9月4日の2回目の講座が終わって直ぐに、今回の講座を主催した富山県総合政策局少子化対策・県民活躍課の担当の女性から、「富山県 令和2年度 中小企業の働き方改革モデル取組事例創出事業」の実践モデル企業に応募されないかと電話があり、WLBのコンサルティングを無料で受けられるとあって、総務部として応募することにし、当社と昭北ラミネート工業、永田メディカル、バロン、日の出屋製菓産業の5社が選ばれました。9月24日には、第1回のキックオフコンサルティングが当社の会議室で行われ、富山テレビの取材もあり、前日の23日に入社した新元総務部次長が「昨日入社したばかり・・・」と自己紹介し、八尾オフィスの林さんが、「若い人たちが遅くまで仕事をしてなかなか結婚できない」と言っていたのが印象的でした。
その後、10月と11月のコンサルティング、12月の中間報告会、そして今年1月と2月のコンサルティングを経て、今月3月3日に富山県民会館で最終報告会が行われ、当社は5社の報告のトリを務めました。新元次長のパワーポイントを使っての発表の後、私が次のようにコメントしました。「中村天風師は『ばい菌一匹でも目的無くこの世に出てきたものはない』と言っていますが、「働き方改革」の目的は、残業を減らすとか有給休暇をしっかりとるとかいうことではなく、働く人の幸せを実現することだと思っています。(中略)今回の働き方改革の実践を通して、総務部をはじめとする事務職の社員7名が、自分の仕事を見直すことで、個々人の仕事が楽しく、仕事も含めた人生が変わり、幸せになることを願っています。(中略)この後は、本丸である現場の技術職社員の『働き方改革』に取り組みます。」
総務部で毎週月曜日の昼休み前に15分間行っている「カエル会議」(早く“帰る”、仕事のやり方を“変える”、人生を“変える”、の3つの意味が込められている)で私は、総務部では5人が毎日お互いのスケジュールを共有して助け合い、ルーチーン業務の見直しをすることなどで、昨年10月以降、残業時間を4分の1に減らすことができた。しかし、事務職社員が一人だけの営業部と第一、第二工事部の3人は、なかなか総務部のように、昼食を別室でとったり、残業せずに毎日退社することはできないだろうが、総務部で生まれた余裕時間を他部署の事務にも向け、彼女たちの仕事の一部を分担できないか考えてほしいと話しています。
そして本丸の現場の技術職社員には、働き方改革など難しいと頭から決めつけるのではなく、突飛な発想でもよいので仕事のやり方を変えてみて、少しでも時間短縮を図り、そういう改善実績を積み重ねて、大きな改革につなげてほしいと思います。
現在、総務部では5時のチャイムが鳴ると、10分後には誰もいなくなっています。何事もやってみること、チャレンジすることです。
昨年11月22日、総曲輪通りにある小さな映画館「ほとり座」で、何年ぶりかで映画を観ました。タイトルは「ぶあいそうな手紙」。ほとり座で上映する映画を選定したり、カウンターに入ったりしているフェイスブック友達の知人の女性Yさんが、インスタグラムで、映画の印象と共に、「素晴らしかったー!これは見逃さないでほしいです」と投稿しているのを見て、翌日早速出かけました。
このコラムを書くにあたり先ほどインターネットで検索した「ほとり座」のホームページ(HP)には、この映画は「手紙の代読と代筆を通して交流を深めていく老人と娘の姿を、おかしくも温かく描いたブラジル発のハートウォーミングストーリー」と書かれていましたが、まさにその通りでした。主人公は頑固で融通がきかず、うんちく好きの、視力をほとんど失って、息子さんとも離れて暮らしている78歳の独居老人です。私も70歳を過ぎましたが、妻と2人の子どもと一緒に暮らしていて、境遇は全く違いますが、年齢が近いので、こんな老後もあるのか、自分には今後どんな出来事が起きるだろうか、などと思いながら映画を観ていました。そして映画はいいなと思いました。
今年1月に「ほとり座」で観たのが、「陶王子 2万年の旅」で、これもYさんから是非観てほしいと勧められた映画でした。チラシも予告編も見ていなかったのですが、「縄文、中国、メソポタミア、ギリシャ、エジプト、ヨーロッパへと人類の知恵を集めながら発展し、現代ではファインセラミックスとして人類を宇宙にまで連れて行くことになった“焼き物”=“セラミック”」(HP)についてのドキュメンタリーでした。陶王子の変化していく様子に興味が持てましたが、正直、学校で歴史の授業を受けている感じで、それほど面白くなく、期待はずれでした。
次に観たのが、「ほとり座」の近くで民芸店を営んでいる長男が、「良かった。ぜひ観たら良い」と勧めてくれた「もち」です。「800年前の景観とほぼ近い姿で奇跡的に守られてきた岩手県一関市特有の食文化である『もち』をテーマに、伝統と生きる人びとの現在を描く。一関市の住民の人びとが出演し、言葉や伝統、感情をありのままの形で残すという手法で、ドラマでありながら限りなくドキュメンタリーに近い作品として製作された。」(HP)という作品です。主人公の14歳の少女の自然な演技を通じて、「忘れたくない 思い出せない そのあいだに わたしたちはいる」という主題に共鳴し、宮沢賢治の詩「鹿(しし)踊りのはじまり」で知った鹿踊りが踊られるシーンも印象に残りました。長男は2度観ましたが、大当たりでした。
2月に入って最初に観たのは「天国にちがいない」です。これは、ほとり座の2月上映作品の予定表で紹介されていたコメントの最後のひと言「10年ぶりの傑作コメディー!」でした。しかし、観ていてもほとんど可笑しくなく、これがコメディーかと首をかしげました。観終わってからHPをのぞくと、「現代のチャップリンと称される名匠エリア・スレイマン10年ぶりの最高傑作!」で、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で特別賞と国際映画批評家連盟賞を受賞した作品と紹介されています。私に見る目が無いのかと思い、Yさんに「さっぱり面白くなかった」と話すと、映画の背景にはパレスチナ問題があるので、そこを理解していないと分からないかもしれないとのこと。しかし、観ていてつまらなかったのだから、はずれでした。
2月の2度目の映画は「瞽女」(ごぜ)です。瞽女とは、三味線を奏で、語り物などを歌いながら、各地を門付けして歩く盲目の女旅芸人ということは知っていましたし、水上勉に「はなれ瞽女おりん」という小説があることを知っていて、瞽女に関心があったので、「天国にちがいない」で「瞽女」の予告編を観て、これは観たい!と思いました。子役の演技に涙し、「瞽女として過酷な人生を歩んだハルは、意地悪なフジ親方からは瞽女として生き抜く力を、サワ親方からは瞽女の心を授かり、一人前の瞽女として成長していく」というストーリーに、こんな女性が実在していたことに驚きながら映画館を出ました。これも大当たりでした。
そこで、この5本の映画の当たりとはずれの違いは何かと考えました。去年の「ぶあいそうな手紙」は、Yさんの投稿を読み、観たくなったのでした。今年の「当たり!」の2本は、事前の予告編で観たいと思わせられた「瞽女」と、息子が激賞した「もち」です。一方「はずれ!」の2本は、Yさんに勧められたので観た「陶王子」と、チラシの「傑作」の言葉につられて観た「天国にちがいない」となります。このコラムのタイトルとした「当たりはずれ」の違いの理由を無理やりつければ、「事前知識の差」となるのでしょうが、占いの「当たるも八卦、当たらぬも八卦」ではないけれど、判断するのは私であり、観てみないと分からないのだから、事前知識や評判に関係なく、むしろ事前知識や評判を忘れた白紙の状態で、私の主観で観たらよい、その印象が差であるという単純なことなのでしょう。とかく評判に躍らせられる私には、心したいことです。
19日の夜は、今回の最終上映になる「アイヌモシリ」を観るつもりです。予告編からは、間違いなく「大当たり‼」となる映画です。(あらら、白紙の状態ではありませんね)
昨年の2020年は、当社が1940年(昭和15年)に創業してから80周年にあたるということで、一昨年から80周年記念事業に何をしようかと考えていました。
一つは5月末頃に行う社員旅行です。東日本大地震が発生した2011年には、被災地には入れないので、福島第一原発事故で避難していた住民が滞在していた会津若松のホテルに、慰問物資として日本酒やTシャツなどを届ける旅行を行い、2014年には被災地の南三陸町や気仙沼などを訪れ、ボランティアガイドさんの説明を聞きながら震災遺構を見学しました。これらの旅行は、従来の観光主体の旅行から、経営理念の解説に掲げた「建設事業には除雪や災害対応も含む」を意識しての旅行への変更でした。
そして2019年には、首都圏外郭放水路の見学と、浅草での芸者さんを入れての宴会を行いました。これは、舗装工事や土木工事を主とする当社にとって、全国の名だたる土木構築物を見ることで土木の価値を実感することと、滅多に見る機会のない伝統芸能を楽しむことで、日本の素晴らしい文化の一端に触れようという趣旨でした。2年続きの社員旅行にはなりますが、2020年も日本各地にある著名な土木構築物の見学を組み込んだ旅行をしたいと、旅行業者に相談をかけていました。
二つ目は、70周年記念で行ったような、社員と協力会のアサヒ会会員が一緒になっての祝賀会を創業月の10月に行うことでした。
しかし、5月に予定していた旅行は、高速道路の工事を年明け早々に一昨年に引き続いて下請け受注したことで、この工事に固定する十数名の社員を残しての旅行は出来ないと考えていたところに、富山県でも3月末に新型コロナ感染者が発生し、旅行は否応なく断念せざるを得なくなりました。しかし、10月になればコロナも終息しているだろうから祝賀パーティーは出来るだろうと思っていましたが、夏には第2波の感染が広まって10月に終息するかどうかの見通しが立たなくなりました。役員会でも、祝賀会を実施しても、アサヒ会会員は親会社の行事だからと義理で出席するだろうけれど、本音はコロナ感染が心配で出席したくないだろう、という意見でした。確かに その通りだろうと思い、お祭り好きの私にとっては非常に残念でしたが、断念することを決断しました。
そうこうするうちに時間は経過し、10月末にメインバンクの当社担当の行員さんから、「朝日建設さんは今年創業80周年ですね。記念の映像作品を作られるなら、業者を紹介しましょうか」と言われ、11月2日に担当行員さんと業者の社長と常務が来社されました。
業者さんはラックプロ(株)で、私が青年会議所活動をしていた時に先輩だった福田さんの会社だとすぐに分かりましたが、社長はこの先輩の息子さんでした。当社の歴史を記録に残すために、50周年に記念誌を作り、70周年には集めた写真をスライド化し、ジャズの「朝日のようにさわやかに」をバック音楽として流したCDを作っていましたので、この2つをラックプロの常務さんに渡して検討を依頼しました。常務さんからは「この2つの資料から、創業から創業70年までの年表を作るので、社長にはこの後の10年間での出来事を年表に付け加え、また、社長に影響を与えた人の名前を書き込んでほしい。出来上がった年表を見ながら、社長が女性アナウンサーと対談する15分から20分のDVDを作ったらどうか」と提案されました。
これまでラジオやテレビの生番組に出て対談形式で喋った経験があるので、この提案を受け入れ、12月13日の日曜日に、富山電気ビルディングの4階の1室で、フリーアナウンサーの廣川奈美子さんと40分間ほどの対談を行いました。ラックプロの常務さんは、私が全く言葉に詰まることなく廣川アナとの対談を進めたことに驚いていました。12月28日には、第一校正のDVDデーターが送られてきました。常務さんが言うには、40分間の収録を15〜20分に縮めようと思ったが、会社のスタッフも皆「20分に縮めるのは惜しい」と言うので30分のDVDにするとのこと。そこでこのデータの修正点を指示し、今年1月8日に完成したデータを確認しました。
全社員とアサヒ会会員全員、そして取引銀行や主な取引先にDVDを配布します。社員の皆さんは、私自身の会社での歴史を垣間見て、私の経営に対する姿勢を知ってほしいと思います。また、このDVDに出てくる当社の年表から、自分の入社した頃のこと、あるいは自分が生まれた時の時代背景などを、できればご家族と一緒に振り返ってみたらいかがでしょうか。家族のコミュニケーションの道具になると思います。
さて、創業80周年の記念に良いDVDができたと満足していましたら、完成したデータを見た翌日の富山新聞に掲載の「きょうの言葉」というコラムがグサリと私の胸に突き刺さりました。タイトルは、5代目古今亭今輔の「決して拍手とは、強要するもんじゃない」で、コラムの筆者の矢口誠さんは最後に「過去の実績や肩書きへの『拍手』を求めず、今の仕事で周囲をうならす。そんな気持ちを持ちたいものだ。」と書いていたのです。このDVDには、私の過去の実績へ拍手を送ってもらいたいという思いが入っているような気がします。
74歳になっても、今の仕事、これからの仕事に集中しよう。