干支が6巡

2019.03.01

 今年の干支は私の干支の亥年で、1月2日に72歳になりました。そこで1月7日の新年式での年頭あいさつでは、プレゼンテーションの最初のスライドにブロンズの猪6匹の写真を映し出して、72歳になったことをアピールしました。

 猪は猪突猛進すると言われていますが、私は「1月2日生まれなので前年の干支の犬に近い猪だから、犬の賢さも備えた猪だ」と他人(ひと)には言っていました。しかし、28歳で当社に入ってからの44年間を振り返ると、やはり前へ前へと突っ走ってきたと思います。

 年頭のあいさつは、今年が初年度の第2期中期経営計画VISION2021から始め、キャッチフレーズの3Cは、Chance、Challenge、Changeの頭文字の3つのCだと説明しました。そしてChallengeの項で以下のスライドを写し当社でチャレンジしてきたことを話しました。

 『私は、昭和50年に当社に入ってから、ずいぶん多くのことにチャレンジしてきました。富山県の建設業者では一番最初にコンピュータを導入し、ロータスノーツによる情報共有も図りました。近年「けんせつ小町」と称される女性技術者は、建設省時代の平成3年からこれまでに延べ16人採用し、リフレッシュカーも開発しました。品質マネジメントシステムのISO9001やCZ式原価管理なども導入しました。平成5年には前田道路との共同企業体合材工場とやまエコン(現 ほくりくエコン)を設立し、平成15年からは 子会社朝日ケアによる介護事業も始めました。これらは全て「やってみなはれ」の精神で行ったことです。失敗するリスクを恐れてやらない、やらないうちから批判する人がいますが、そういう考え方はつまらないし、そういう人の人生もつまらないと思います。打席に入ったら、空振りを恐れずバットを振りましょう。一度もバットを振らずに三振しないことです。積極果敢にチャレンジしましょう!』

 このチャレンジ精神はいつ頃から身についたかと振り返ると、学生時代やサラリーマン時代は決して積極的にチャレンジしてきたとは言えません。周りの流れで高校受験し大学受験しただけで、進学することに対して確たる目的があったわけではありませんでした。大学に入学して入った柔道部は、体力のなかった私には厳しい稽古でしたが退部することなく5年間在籍し、国立七大学柔道優勝大会には選手として出場しました。しかし、寝技に持ち込めば負けなかったので「分け役(引き分けることが役目)で満足し、勝って次の相手と戦う役目の「取り役」を目指そうとはしませんでした。社会人では、スーパーゼネコン2社の採用試験にいずれも建設会社の長男ということで落ち、大学の先輩から声をかけられ関西の中堅ゼネコンに入社し5年間働きました。建築営業部で真面目に仕事はしたものの、いろんな課題のあった会社や部署を変えようとしたこともスキルアップのための自己研鑽もせず、夜な夜な飲み歩いていました。

 朝日建設に入社してからは、それまでと一転して前述の様に新しいことに次々にチャレンジしてきましたが、その原動力は、現状を改善、改革しようという意欲であったと思います。入社した時から、当時の200人近くの社員も、同業者や取引先、銀行など社外の人たちも誰もが私が3代目社長になるものとして接しました。そんな状況では、経営者として利益をきちんと上げるために現状を変えていかなければいけないと思うのは、ごく自然のことだったのでしょう。

 しかし、仕事以外の勉強会に参加するうちに、CI(コーポレート アイデンティティ)や企業理念などについて考える様になりました。そして、アンパンマンマーチの歌詞にある「何の為に生まれて 何をして生きるのか 答えられないなんて そんなのは嫌だ!」に行き着くのです。私は、富山大学で講義する時も、中学校で課外授業をする時も、採用活動でも、パワーポイントのスライドにアンパンマンを画面いっぱいに映した後にこの歌詞を映します。そして、ドキンちゃんとバイキンマンを映してから中村天風師の「ばい菌一匹でも、目的無くこの世に出てきたものはない」の言葉を映して、「皆さんの生きる目的は何ですか?」と問いかけるのです。

 私の生きる目的は、英国の天文学者ハーシェルが彼の友人に語った「わが愛する友よ、われわれが死ぬときには、われわれが生まれたときより、世の中を少しなりともよくして逝こうではないか」(I wish to leave this world better than I was born .)と同じ想いの下に、当社の経営理念「朝日建設は、建設事業とその関連事業を通して世の中の役に立つ。そして、ふるさと富山を発展させる。」を実行することです。土木事業無くして、普通の暮らしは成り立ちませんし、文明を発展させる基盤を作るのが土木です。私は、土木という素晴らしい仕事に携われて幸せだと思っています。

 幸い、ここ十数年ほどは、風邪をひいて会社を休んだことがありません。休んだのは、2012年10月の脊柱管狭窄症の手術と、昨年の2月の白内障の手術の時だけです。干支が6巡した今年、背中はずいぶん曲がってきましたが、中村天風師の「絶対積極」を心と行動の軸として、心は真っ直ぐに勇気をもってチャレンジを続けたいと、これまで以上に強く思っています。

 そして今チャレンジしているのが、新しい人事評価システムを当社に導入し、制度を構築することです。この人事評価制度は、昨年11月に「人事評価制度7つの新常識」というタイトルのセミナーで知り、経営理念の2番目「朝日建設は、人を経費ではなく成長する資源と考える」の具体的な行動になると直感し、「これはチャンスだ!」と、当社への導入を決めたものです。現在、この制度を開発した「あしたのチーム」の担当者と私、専務、営業本部長、総務部長の5人で作業を進めていますが、作業を重ねるごとに、行動目標と数値目標が連動した制度で、業務、営業、総務のそれぞれの部門で、一人ひとりの社員の成長のために使えるとの確信を強めています。この制度で当社がどのようにチェンジしていくのか楽しみです。

H中学1年7組

2019.02.01

2月7日に、富山経済同友会の会員が県内各地の中学校で行っている課外授業の講師として、H中学校で3年ぶりに授業をしました。「生き方を学ぶ講演会『13歳の学び』」というテーマのもとに、1年生9クラス全ての教室で、同友会会員が一人ずつ担当して授業を行ったのですが、私の担当は7組でした。

 私がこれまで行ってきた授業のタイトルは、中学2年生時に行う「14歳の挑戦」の前に話すことが多かったので、最初の頃は「学ぶこと、働くこと」、その後、聖路加国際病院の日野原重明先生が創立された「新老人の会」の活動に参加してからは「生きること、学ぶこと、働くこと」が定番になっていました。

 今回もAppleが開発したプレゼンテーションソフトKeynote(キーノート)で、授業の資料を作りましたが、タイトルは「生きること、学ぶこと、働くこと」でも、話す順番を「生きること」、「働くこと」、「学ぶこと」とし、これまでのスライドの順番を入れ替えたり、付け加えたり、削除したりしました。それは、私が伝えたいことの流れが、「生きている=いのちがある。いのちとは自分の使える時間。人間に生まれてきたのは人の世の役に立つため」→「働くとは、端を楽にすること。働くとは有意義に生きること」→「よりよく生き、よりよく働くためには、よりよく学ぶこと」だからです。

 この流れに従って、いろんな人の言葉や、言葉の意味などを紹介していきます。母を見舞った時に看護師さんが言った言葉から授業を始めて、アンパンマンマーチの歌詞、日野原重明先生と中村天風の言葉、「働く」の語源、イギリスの天文学者ハーシェルの言葉、まどみちおの詩「朝がくると」、朝日建設の経営理念とやっている仕事、哲学の英語philosophyの意味、能力を高めるのに一番大事なのは考え方、そして松下幸之助の言葉まで続くのです。

 授業した日はとても良い天気で暖かかったのですが、途中で居眠りしていた生徒は私の目の前に座っていた男子生徒一人で、以前他の中学校にいたような、後ろを向いて平気で私語する生徒や行儀の悪い生徒は皆無でした。

 授業を終えて、しっかり準備し、それなりに伝えたいことは伝えられたかなとは思いましたが、いつもの私の悪い癖で、これも言いたい、あれも伝えたいとの思いからスライドが多くなり過ぎていて、果たしてどれだけ生徒の心に残ったのかといささか不安に思いながら、アンケート結果を待ちました。

 アンケートは5問で、

1.講義の内容はどのくらい理解できましたか。①とても理解できた ②理解できた ③あまり理解できなかった ④まったく理解できなかった

2.講義の内容はあなたの役に立ちましたか。①とても役に立った ②役に立った ③あまり役に立たなかった ④まったく役に立たなかった

3.今日の講師の話をまた聴いてみたいと思いましたか。①とてもそう思う ②そう思う ③あまりそう思わない ④まったくそう思わない

4.講師の話の中で、あなたの心に一番強く残ったことを教えてください。

5.その他、授業の感想、講師への一言など自由に書いてください。でした。

 生徒数は33人で、問1と2に①をつけたのが21人、問1が②で問2が①は4人、問1が①で問2が②は1人、問1も2も②が6人でした。これは33人中32人が私の講義を理解し、役に立ったと思ってくれたということであり、何とも嬉しい限りです。もう1人は問1が③、問2と3が④でしたが、おそらく目の前でほとんど寝ていた生徒だと思います。

 問4の記述では、看護師さんの言葉「人間が生きているのには、必ず意味があります」が多かったのですが、日野原先生の言葉「生きている=いのちがある。いのちとは自分の使える時間」や「今という時、今日という日を精一杯生きて、寿命という器を生きた時間で満たしましょう」、中村天風の言葉「ばい菌一匹でも、目的無くこの世に出てきたものはない」や「この世、この時、人間に生まれてきたのは、人の世の役に立つために生まれてきたんだよ」もいくつかあり、今回初めて話したハーシェルの言葉「この世の中を、私が死ぬときは、私の生まれたときよりは少しなりともよくして逝こうじゃないか」も書かれていました。また、私が説明した「働くとは、端を楽にすること」、「役に立つ仕事をして初めて給料がもらえる」や、私が作った方程式「働く=有意義に生きる」も書かれていました。

 問5の記述では、「生きていることに感謝して、この話を参考にこれからに生かしていきたい」、「この世を良くするために、私も自分のできることを頑張りたいなと思いました」、「とても将来に役立つ内容で、来てもらえて良かったなと思いました」、「社会や、外国語関連の話が多く、受けていて楽しい講演だった」、「たった1時間程度なのに、人生のほとんどが今回の話だと思いました。これからの人生を生きて行き、ひとのためになりたいと思いました」、「講師の先生の会社のような、その会社が何をしたくて、何の(ために)誰のために運営しているのかが分かるところに勤めたいと思いました」など、生徒たちにしっかり受け止めてもらえたと思いました。また、「お忙しい中、本当にありがとうございました」というお礼の言葉がいくつもあり、「御社の100周年パーティーが盛大に行われることを願っています」というのもありました。ちなみに、問1が③、問2と3が④の生徒の問5には「本をよもうと思った」とありました。

 以上は、私の授業が終わってから教室で書いたアンケートの内容でしたが、学校から追加で送られてきた6枚の感想の中に、「私は今までに何回かこういった話は聞いたことがあるけど、ここまで心に響いた講演は初めてでした。生きること、命の重さ、働くことの意味。人間が生きるのには必ず意味がある。いのちとは、自分の使える時間のこと。働くのは、端(周りの人)を楽にすること。この3つの言葉がとても心に残っています。これからの一生、この言葉を大切にして生きていきたいと思いました」と書かれていました。これまでに行ってきた課外授業を振り返り、どうしたら生徒の心に残る授業になるかと一生懸命考えて準備したことに対するご褒美だと感じました。

絶対積極

2019.01.01

今年最初のこのコラムは、今月15日から17日までの3日間、各部門で行なった朝礼での私の話に肉付けします。

 私は富山市相撲連盟副会長として、毎年1月に行われる新春稽古始めの開会式で、小・中学生や高校生の選手を前に挨拶をしていますが、今年は、身体より精神が大事だという話をしようと思いました。そこで、このように話し始めました。

 日本では武道や相撲で「心技体」の3つの要素をバランスよく鍛えなければいけない、と言われますが、「健全なる精神は健全なる身体(肉体)に宿る」という言葉もあります。身体が健全であれば、それに伴って精神も健全になるとして、何事も身体が元であると言っているのです。しかし私は以前からこの言葉はちょっとおかしいのではないかと思っていました。プロ野球の大物スター選手で覚醒剤を使用し何度も逮捕された人もいれば、大相撲の力士にも野球賭博や暴力行為で廃業した力士がいました。アマチュアスポーツ界でも、ドーピング検査で陽性反応が出てメダルを剥奪された選手が世界各国にいましたし、昨年は特に、パワハラやセクハラで世間を騒がせた大物指導者が話題にもなっていたからです。

 そこでこの「健全なる精神は健全なる身体(肉体)に宿る」という言葉を調べてみました。そうすると古代ローマ時代の詩人ユウェナリスの言葉からきているが、元々は、「賢明な人間が神に願うのは、健全な精神と健全な肉体、この2つさえあれば、それだけで満足するべきである」というもので、「宿る」とはどこにも書いてないということです。

 その後しばらくは本来の正しい意味で使われていましたが、近世になって世界規模の大戦が始まると状況は一変しました。ナチス・ドイツを始めとする各国はスローガンとして「健全なる精神は健全なる身体に」を掲げ、さも身体を鍛えることによってのみ健全な精神が得られるかのような言葉へ恣意的に改ざんしながら、軍国主義を推し進めたのです。その結果、本来の意味は忘れ去られ、戦後教育などでも誤った意味で広まることとなり、このような誤用に基づいたスローガンは現在でも世界各国の軍隊やスポーツ業界を始めとする体育会系分野において深く根付いているということです(ウイキペディア、「ユウェナリス」から)。

  このことを紹介し、つぎのように挨拶を続けました。

 中村天風という昭和の大哲学者がいます。山本五十六、東郷平八郎、原敬、松下幸之助、稲盛和夫、ロックフェラー3世といった後の政界、財界の大物たちが天風の教えに影響を受け、大相撲で69連勝した横綱双葉山も天風の門下生でした。中村天風は日露戦争の軍事探偵、今で言うスパイとして満蒙で活躍。帰国後、当時不治の病であった肺結核を発病し、日本でもアメリカでも治らず、船での帰国途中にスエズ運河で停まっていたときインドのヨガの大行者に誘われ、その行者の下、ヒマラヤの麓での2年半の修行ですっかり結核が治りました。この天風は「身体病んでも、心まで病ますな」と言い、「心が体を動かしている」と考えました。この一年、皆さんはしっかり心を鍛えてください。

 以上が私の挨拶ですが、これからはこの挨拶の後、更に考えたことです。

私は今年の新年式で、今年から始まる新しい中期経営計画「VISION2021」のサブタイトル「3C」について説明しました。3Cとは、Chance,Challenge,Changeですが、これもまず心がスタートです。チャンスをつかもうとする心、挑戦しようとする心、変わろう、変えようとする心がなければ、念仏のようにこの3Cを唱えていても、何もつかめず、挑むこともなく、変わることもありません。3Cに向かう心は積極的な心なのです。

 私は人生においては中村天風が言う「絶対積極」が最も大事だと思います。天風の「絶対積極」とは、「人間として生きてきたからには、積極的に生きようではないか。苦しいことがあったからと言って、下を向かずに前を向くべき」というもので、人生を好転させるのは自分の心の持ちよう次第であるという積極的思考の教えであり、天風は絶対積極について、次のように言っています。

「心がその対象なり相手というものに、決してとらわれていない状態、これが絶対的な気持ちというんだよ。何ものにもとらわれていない、心に雑念とか妄念とか、あるいは感情的ないろいろの恐れとか、そういったものが一切ない状態。けっして張りあおうとか、対抗しようとか、打ち負かそうとか、負けまいといったような、そういう気持ちでない、もう一段高いところにある気持ち、境地、これが絶対的な積極なんですぜ。」

 日々、心がけたいものです。