総曲輪で民芸店をやっている長男が3月初め、彼の店の近くにある映画館「フォルツァ総曲輪」で3月7日の土曜日から上映する映画「パーソナル・ソング」のチラシを持って来てくれた。本年度サンダンス国際映画祭で観客賞を受賞したドキュメンタリー映画で、アルツハイマー病が音楽の力で劇的に改善した事例が紹介されている作品とのこと。
(有)朝日ケアで老人介護事業を営む者として、これは観なければいけないと思った。そこで、上映時間を調べるためにインターネットで「フォルツァ総曲輪」を検索したところ予告編が載っていた。「アメリカで500万人、日本には400万人がいるといわれる認知症の人々。認知症やアルツハイ マー病には完全な治療法がまだ無い」のナレーションで始まり、終わりのほうで「1000ドルの薬より、一曲の音楽を!」の言葉が流れる。認知症の老人にiPodからヘッドフォンで音楽を聴かせると、全く無表情だった老人が「オー」と声を上げ、過去のことを思い出して話し出したり踊りだしたりするその変わり様にビックリした。早く観たいと心がはやった。
毎日15:45から17:10までの1回だけの上映なので、3月8日の日曜日にこの映画を観た。どの場面も感動的だった。そして、アメリカでの認知症対応の歴史も知った。施設を作り、身体を拘束し、薬に頼った介護であり、日本も後追いをしているのだと分かった。そして、「1000ドルの薬より40ドルのiPod」という、iPodを使ってのこの音楽療法実験を生み出したダン・コーエン氏の言葉が強く印象に残った。4月から介護報酬が2.27%切り下げられると、多くの介護事業所が経営破たんし、介護を必要とする多くの日本のお年寄りと家族が大変なことになるのではないかと思っている私にとって、薬ではなくiPodで認知症を回復し医療費を抑えることができるという事実を知り、日本の介護の将来にほんのチョットだけ光明が見えた思いがした。
映画を観終わり帰りに買ったパンフレットに、以下の文章が載っていた。
「老人介護における大きな問題点は抗精神病薬に頼りすぎていることだ」と監督は語る。老人ホームの患者の20%が抗精神病薬を使用している。しかしヘンリーのような患者にとっては、音楽こそが、精神的にも経済的にも最も効果のある手法だということが証明されつつある。
老いを研究する学者であり、長期介護の改革を唱えるビル・トーマス医師は言う。「現状の健康保険のシステムは、人間をまるで複雑な機械のように扱っている。ダイヤルを調節するように患者をコントロールできる薬は持っているのに、患者の心と魂に働きかけるようなことは一切しない。」
「ほとんど効かない薬を開発する費用に比べれば、アメリカ中の老人ホームにいる患者に、それぞれのお気に入りである“パーソナル・ソング”を届けるほうが、よほど効果的だろう。」と語るトーマス医師。「一ヶ月1000ドル(約10万円)以上の抗うつ剤を処方箋として出すことは簡単。しかし残念ながら音楽療法は医学的行為として見なされていない。投薬がビジネスになっているのです。」
あさひホームの介護スタッフにも観てほしいと思い、このチラシを拡大コピーして、上映が始まる前にホームに持って行った。後日、訪問介護のスタッフが「観に行きました。とても良かったです。訪問先でやってみたいけれど、どうやって好きな音楽を聞き出すかが課題になりますね」と語ってくれた。他にも何人かのスタッフが観に行ったようなので、感想を聞いてみたい。そして、あさひホームにおいても、利用者お一人お一人の「パーソナル・ソング」を見つけ、認知症の改善を促す取り組みをしてみたい。そのことで要介護度が下がり、連動して介護報酬が下がっても良いではないか。経営的には苦しくなるが経営理念に合致するのだから、収入のアップは他で知恵を絞ろう。
この映画の原題:Alive insideは「中は生きている」という意味であり、無反応でそこにいるだけのような認知症の人でも、音楽が脳の生きている様々な領域に届き、心を呼び覚まして当時の記憶を蘇らせると、パンフレットに書いてあった。カラオケが嫌いで、歌を歌うことなどほとんどない私に、「パーソナル・ソング」があるのだろうかと思ってしまう。認知症になったときのために、今のうちにこんな曲が好きだったとメモしておこうと思った。
来月3月14日に北陸新幹線の長野―金沢間がいよいよ開業するが、このコラムが配布される2月25日は、「北陸新幹線開業あと17日」である。
私自身は北陸新幹線の工事が着工されても開業にはそれほど大きな関心は無かったのだが、富山駅の新駅舎にライトレールが乗り入れるための富山駅南北接続軌道施設工事に、当社が昨年4月下旬から乗り込んだことで、隣接する駅前広場の工事も含め関連工事が開業に間に合うだろうかと、この頃から俄然気になり始めた。そして、開業前日の3月13日にリニューアル記念式典が行われることが決まっている富山県民会館の改修工事に伴う外構工事を受注し、施工検討会に参加して土日も祝日も返上の厳しい工程を知り、新幹線開業日の3月14日が脳裏に刻み込まれた。
この北陸新幹線の開業効果を観光振興、地元産業の活性化、新たな企業誘致、定住・半定住等につなげたいと、行政も経済界も期待している。地元紙の北日本新聞や富山新聞でも、新幹線開業がらみの記事を見ない日の無いここ数ヶ月であり、県民が開業に向けて各方面で様々な準備をしている様子が良く分かる。しかし、開業効果を最も享受するのは終着駅の金沢であり、富山が開業効果を実感できるためには、果たして今のような準備で良いのかと思わせられたのが、日経新聞の2月14日と16日の記事であった。
2月14日(土)の「日経プラス1」の1面「何でもランキング」での「何でも」は「新幹線でもっと身近に 金沢のお土産」だった。惣菜系の1位は加賀麩不室屋の「ふやき御汁 宝の麩」で、お菓子系の1位はまめや金澤萬久の「みたらし豆」だったが、私が食べたことのあるのは、惣菜系では1位の「宝の麩」だけで、お菓子系では、2位の「じろあめ壷入り」、6位の「麩万頭」と10位の「柴舟」だけであった。
もうすぐ富山と高岡で、「エンジン01」文化戦略会議が「オープンカ レッジ」を開催するが、会議構成メンバーの一人である富山市出身で博報堂のクリエイティブディレクター太田麻衣子さんが昨年末の富山での講演会で、博報堂の女性社員十数人に北陸新幹線が開業したら行ってみたいところや食べたい物を尋ねたら、石川県のほうが富山県より圧倒的に上位だったという話を思い出した。全国紙でも、北陸新幹線開業でまず取り上げるのは金沢だという現実を、「日経プラス1」で思い知らされた。
さらに追い討ちをかけたのが、翌々日2月16日の1面に掲載されているコラム「春秋」だった。「ある老舗で寄せ鍋をつつき、丸谷才一さんは驚嘆した。」で始まるこのコラムは、「丸谷さんだけでなく、泉鏡花や室生犀星、吉田健一と名だたる文人が金沢の味や城下のたたずまい、伝統工芸を賞賛してきた。住んだ経験のある五木寛之さんはエッセーに、ここは「目に見えない魔力のようなもの」が宿っていると書いた。」とあり、こう書かれては富山は金沢にチョット太刀打ちできないと思った。妻にこのコラムの話をしたら、「金沢はやっぱり歴史があり、土塀が続く長町の武家屋敷なんかもいいわ」と言う。確かに歴史を感じさせる街並みや、細やかな気遣いがされた料理は富山には無い。
富山県には、近年台湾からの観光客がたくさん訪れるようになった立山の雪の大谷や黒四ダムなど魅力的な観光地はあるが、金沢のように通年で訪れる所ではない。私は常々富山は、魚も酒も水も空気も日本一美味しいと思っているが、先日ある人から「富山の寿司は寿司ではない。刺身とご飯だ。」と言われ、以前、金沢の有名な寿司屋で食べた寿司の味を思い出した。富山で食べる寿司とはどこか違っていたが、確かに、魚とご飯とが一体になった味わいがあった。
観光なら、全国それぞれに訪れてみたいところがある。味にしても、その土地ならではの味がある。場所も味も今更変えられるものではない。しかし、富山県人に足りないといわれる「もてなしの心」は、意識すれば高められるのではないだろうか。
先週、新潟に出張するために11時頃JR富山駅で海産物を扱っている店に入った。以前何度かこの店で結構美味しい握り寿司を買っていたので、この時も昼食用に握り寿司を買おうとしたのである。店のおばさんに寿司は無いのかと聞くと、未だ配達されていないとの返事。何時ごろ届くのかと聞けば、12時過ぎとのこと。「それではお昼時に食べたい人が食べられない。配達をもっと早めてもらえば良いのに、新幹線も来ることだし」と言ったら、その返事は「配達時間は決まっとっから仕方が無い。それに新幹線が来るとき、この店はもうやっとらんからいいが」。腹が立った。こんな対応をする富山県人ばかりではなかろうが、「もてなしの心」が微塵も無い応対であった。
観光振興、地元産業の活性化、新たな企業誘致、定住・半定住等の促進は、新幹線開業によるなど時間的早さ、高速道路とのアクセスの良さ、居住環境や子育て・学習環境の良さなどハード面の整備だけではだめだと思う。また訪れたい、しばらく滞在してみたい、住んでみたいと思わせるものが無ければいけない。それは富山に来た人一人ひとりにとっての個別の想い出であり、その人にとっての物語だと思う。店員さんだけではなく、道を尋ねた人、タクシーの運転手さんの、そして大人にも子供にも誰にでも感じられる「もてなしの心」、「思いやりや気遣いの心」が想い出となり、富山ならではの体験が物語になるのだろう。
北陸3県の県民性を表す言葉として、「越中強盗、加賀乞食、越前詐欺師」というのがある。生活にぎりぎりまで困窮したら、富山県人は強盗を働き、福井県人は詐欺をしてでもしぶとく生きていくのに対して、加賀百万石の金沢の人は、なすすべもなく乞食になってしまうというのだ。強盗と言われて良い気分はしないが、富山県人の県民性である勤勉性を例えたものだと思えば、腹も立たない。北陸新幹線開業を契機に、勤勉性の土台の上に、他人に対する「もてなしの心」、「思いやりや気遣いの心」を積み重ね、旅する人に物語を作ってもらえるような工夫をしたいものだ。
今月から5月まで、ゴールドラット・コンサルティング・ジャパンが開催する「ゼロから始めるTOC 実践ワークショップ(全5回コース)」に参加する。各回とも土曜日10:00〜18:00の開催で、会場は、昨年4月に京都市左京区八瀬(大原の手前)にオープンした、ゴールドラット・コンサルティング・セミナーハウス「楽月庵」である。
このワークショップに参加することにしたのは、当社が導入しているCCPM(クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)の基になる理論体系TOC(theory of constraints制約理論)を、今度こそシッカリ学びたいと思ってのことである。
CCPMを当社に導入したのは2007年12月であったが、そのきっかけは、その年の11月15日の、現在ゴールドラット・コンサルティング・ジャパンのCEOであり、当時はソフト開発会社ビーイングの取締役であった岸良裕司さんとの出会いであった。岸良さんは、私が富山県建設業協会経営改革推進委員長として行った経営改革セミナーの講師として来富されたのだが、岸良さんの熱く面白い講演に、CCPMを使って発注者である役所と施工者である建設業者が一体になって工事を進めることで、地域住民のためになる「三方良しの公共事業」が実現できたらどんなに建設業界が楽しいものになるかと思わせられた。セミナーの後しばらくして岸良さんから電話があり、12月21日は身体が空いているので、今回と同じようなセミナーを、朝日建設が実際やっている工事を事例にして朝日建設でやりましょうと言う。それはありがたいと、当社の社員十数名に富山県庁の土木部と農地林務部の職員も交えて、富山大橋下部工A2橋台工事を題材にしてのCCPM社内セミナーを本社4階会議室で開催した。「三方良しの公共事業改革」に すっかり共鳴した私は、このセミナーの後すぐにCCPMのソフトを購入し、当社でもCCPMに取り組むことにしたのであった。
そして、翌2008年に全国組織「三方良しの公共事業推進研究会」を発起人の一人として立ち上げ、研究会が毎年主催する「三方良しの公共事業推進カンファレンス」に、社員と一緒に参加している。
2009年4月には岸良さんの誘いで、TOCを提唱したイスラエルの ゴールドラット博士の東京での3日間の来日セミナーに参加した。しかし、博士の講演を直接聴いたからといって、TOCがキチット理解できるというものではなかった。
TOCについて不勉強だと感じていた私は、2013年の1月中旬に届いた岸良さんからのメール「2月10日第2回考える大人になるTOCのコンファレンス@京都大学やります!」に即反応して、内容をよく読まないままに「考える大人になるー教育のためのTOC」シンポジウムに参加した。このシンポジウムは「教育のためのTOC」だったので、父親が小学生の娘と一緒に行ったプレゼン「新体操で銅メダル獲得!」や中学1年の男子生徒のプレゼン「TOCを使って中学校生活を充実させよう!!!」を交え11の事例発表がなされたが、それぞれに素晴らしかった。帰りの列車の中では、「時間がない」と言わないで、TOCを基礎からしっかり学び、会社で、そして家庭で、課題解決に役立てたいと思った。
そこで岸良さんにTOCを学ぶにはどうすればよいかと尋ね、彼が書いた「全体最適の問題解決入門」を勧められたので購入して読みもしたが、実際にTOC理論に基づいて当社の問題解決に当たるという状態には未だ至っていない。
そんな状態であったところに、昨年12月8日、TOCクラブから『ゼロから始めるTOC 実践ワークショップ』の第3回目を実施するという案内メールが届いた。「2014年4月に「ゼロから始めるTOC 実践ワークショップ」を開講しましたが、早いもので今回で3回目となります。いつも沢山のお申し込みをいただき、あっという間に満員(注:定員30名)になり、参加ご希望の多くの方々にご参加いただけないことを本当に申し訳なく思っています。」と書かれているではないか。京都は遠いと感じはしたが、「ゼロから始める」と「実践ワークショップ」という言葉に、これならTOCをきちんと学べるのではないかと思い申し込みした。
また、11月初めに岸良さんから来たメール「全世界で1000万人が読み、日本のみならず、世界各地で幅広い分野で目覚ましい成功事例が続出している『ザ・ゴール』。1984年に出版以来、今も色あせないベストセラーなのはご存じのとおりです。この不朽の名作、出版30周年を記念して、まんが版『ザ・ゴール』を世界に先駆けて日本で最初に出版することになりました。そこで、まんが版『ザ・ゴール』の発売を記念し、ゴールドラット博士の世界中の側近が日本に集結。世界の最高峰の知識体系と事例を一挙公開する2日間、「全体最適のマネジメント理論TOCサミット」を開催することにしました。」にも反応して12月17日、18日の東京でのサミット参加し、会場で、漫画を描いた蒼田山(あおた・やま=本名宮前聡子)さんのサイン入りの本を買った。サミットで紹介された事例はそれぞれに興味深かったが、なかでも引き込まれたのが、今月の私の朝礼で紹介した、マツダの人見光夫さんからの、CCPMをフル適用しての新型エンジン「スカイアク ティブ」の開発物語であった。帰りのJR車中、特急「はくたか」が雪で2時間近く遅れたこともあり、まんが版『ザ・ゴール』を読み終えたが、TOCの理解が急に進んだように感じた。これは全社員に読ませるべきだと思い、翌日まんが版『ザ・ゴール』を70冊注文し、12月26日に書店に取りに行き、その足で八尾・富山の両オフィスとほくりくエコンに所属社員数分の本を届け、本社では各部門で直接社員に「年末年始の間に読んでおくように」と言って手渡した。
そして今年、「ゼロから始めるTOC 実践ワークショップ」がスタート。1月17日の土曜日、朝5時8分発の特急「しらさぎ」の車中で、事前準備として一読するように奨められたゴールドラット博士の論文「巨人の肩の上に立って」を何とか読み終え京都に着いた。第1回ワークショップ全体最適の生産マネジメント−DBR(Drum Buffer Rope)は7時間の長丁場であったが、「ザ・ゴール」のDVDを見る45分間のセッションや、「巨人の肩の上に立って」の全文を解説を交えながら読むセッションなどもあって、自分なりにかなりTOCの理解が進んだように思った。
そして、ワークショップで何度も繰り返して語られる「流れ(flow)」を耳にしながら考えたのが、2015年カレンダーの黄色い紙への印刷のことだった。これまでやっていた総務部の社員が印刷するという工程を省いても何の支障も無く、むしろ、社員が来年3月までの休日を早く知ることができる、黄色の紙にかかる費用が省ける、総務部の社員が印刷するのにかかる時間(=お金)が不要になる、白色の紙に印刷したほうが、ピンクや黄色、グリーンなどの色を印として日付につけられて便利などのメリットがあると 思った。19日に出勤し、すぐにこのことをノーツのメールで通達したが、ワークショップに参加した効果が早速出たと、内心嬉しく思っている。
4月25日のワークショップは、「全体最適のプロジェクトマネジメントCCPM」だ。当社の今年の経営指針の3番目「CCPMの考え方の全工事での展開」を今年こそ前進させるために、社員2、3人を同行し一緒に学んでもらうつもりだ。
参加者の中で、そして講師陣の中でも、68歳の私が最年長者だが、5回のワークショップから得たものは私が一番大きかったと言えるように、この後4回、シッカリ楽しく京都で学んできたい。