「あさひホーム吉作」での決断

2013.08.17

8月末日をもって、「あさひホーム吉作」のデイサービスを廃止することにした。理由は、不採算。
 富山市北代で「あさひホーム」、富山市吉作で「あさひホーム 吉作」を運営する有限会社朝日 ケアは、現在それぞれのホームにおいて以下の介護事業を展開している。「あさひホーム」では、デイサービス(定員30名)、ショートステイ(定員9名)、グループホーム(定員9名)、居宅介護 支援事業所、訪問介護の5事業、そして「あさひホーム吉作」では、デイサービス(定員10名/小規模事業所)とグループホーム(定員9名)の2事業を行っている。
 平成15年4月1日に開業 した「あさひホーム」は今年4月に開業10周年を迎えたが、この10年間に、いくつかの事業変遷があった。開業と同時に始めた居宅介護支援事業所を翌年の11月に休止し、平成18年9月に再開したこと、平成17年2月に訪問介護を新しく始めたこと、同年7月には介護タクシー事業も新たに始めたが平成19年3月に廃止したことなどである。デイサービスの定員は当初20名でスタートしたが、翌年5月に25名に変更し、さらに平成17年1月に現在の30名に変更している。
 「あさひホーム吉作」は平成18年7月1日に開業した。開業の経緯については、このコラムの平成18年6月号に詳しく書いているが、一言で言えば、「あさひホーム」が開業4年目にして採算が合いだしたので、それに続く事業所を作って「あさひホーム」が目指すレベルの高い介護サービスをより多くのお年寄りに享受してもらいたいと思ったからであった。
 デイサービス定員10名(床面積からは20名可能)、ショートステイ定員6名、グループホーム定員6名でスタートしたが、北代に続き吉作にホームを作ったことで介護スタッフが増え、事業所が2箇所になったこともあって、スタッフ間の意思疎通や信頼関係に齟齬(そご)をきたして不協和音が生じるようになり、職場の雰囲気がぎすぎすしてきた。そして平成20年4月に数人のスタッフが一時に退職し、介護スタッフ不足から「あさひホーム吉作」のショートステイの運営が出来ない状況に陥った。この問題を解決するに当たっての私の判断基準は、運営理念の「私たちの仕事はお年寄りに満足してもらうこと。満足を測る物差しの一つに心からの笑顔がある。この笑顔とは、お年寄りだけではなく、家族も介護スタッフも地域住民も含んだ皆の笑顔である。」だった。お年寄りに満足してもらえないような「あさひホーム」や「あさひホーム吉作」なら運営する意味がない、運営理念に合わないスタッフには辞めてもらってかまわない、そのことで一部の事業が運営できなくなってもかまわないと考え、平成20年6月にショートステイを廃止した。そして、ショートステイの収入がなくなる対策として、ショートステイの部屋をアパートとして賃貸し、その住人のお年寄りが1階のデイサービスをご利用いただくという、今はやりの「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」の仕組みを先取りしたような名案を吉作Mホーム長が考え出し、ショートステイ廃止後しばらくしてから実行に移した。おかげで私の義母もアパートの住人として入居でき、その後グループホームに入居し今もそこで暮らしている。また、思惑通りデイサービスの利用率が100%近くに増え、開業以来ずっと利用者さんの数が定員の10名の半分にも満たない日が続き常に赤字だった吉作のデイサービス部門が黒字に転じ、朝日ケア全体の収益に貢献できるようになった。
 しかしこのアパート事業も、グループホームと同じフロアで明確な仕切りなしに営むことは介護保険の規定に抵触するという役所の指導で、平成23年末で廃止せざるを得なくなった。そして昨年3月からはグループホームの定員を9名にして、12室のうちの余った3室を男女の休憩室と地域交流室とした。一方デイサービスは、利用者さんの数を増やすために定員を増やしてみようと、平成23年4月に定員を10名から15名にしたがさっぱり利用者さんは 増えず、利用者が10名の小規模事業所ということで介護報酬におけるサービス料の単位が通常より15%アップだったのも15名では無くなったことで、採算はより悪化してしまった。そこで1年後の昨年4月からは以前の10名に定員を戻し現在に至っているが、小規模で手厚い介護を実践していても、部門赤字は一向に解消されないままであった。
 そんな状況で、今年6月3日開催の運営会議で「あさひホーム吉作」のデイサービスの廃止が提案された。現在、デイサービスをご利用のお年寄りの中には、吉作でなければいけない、また、吉作でなければお世話できない方が何人かいらっしゃることを知っていたので一瞬判断に迷った。しかし、これまでいろんな努力を重ねてきても 状況が改善されず、朝日ケアの収益の足を引っ張っていること、さらに、北代のデイサービスもここ1年ほど、近所に新しいデイサービス事業所が増えたことから利用率が10%ほど下がり、この対策も喫緊の課題であることを考えると、朝日ケアを地域に必要な介護事業所として存続させ続けるためには利益が必要であり、不採算部門の吉作のデイサービスの廃止はやむを得ないと判断し、8月末を目処に廃止することをその場で決定した。
 現在ご利用のお客様には、北代のデイサービスをご利用いただく、あるいは担当のケアマネージャーさんと相談して 新たな事業所をご利用いただくなど、廃止に伴うその後の手続きをしっかり進めてはきたが、やはり気になるのは吉作での デイサービスが最適と思われるお年寄りのことであった。しかし実にタイミングよく、富山市においてもグループホームの共用部分を利用してデイサービスを行う「共用型認知症対応型デイサービス(定員3名)」が行えることになった。サービス料の単位が現在よりマイナス 42%に低く抑えられはするが、吉作のデイサービスに1日に3人までは通えることになる。報告を受けて素直に嬉しかった。早速富山市に申請し、9月1日からこのサービスを開始することにした。
 経営には「選択と集中」が大切だと言われるが、こうして振り返ると、北代でも吉作でも多くの「選択」がなされてきた。今回の吉作のデイサービス廃止は、採算が合っているサービスを「選択」してそこに介護スタッフを「集中」するための決断であり、これから収益がどう改善されていくか、非常に楽しみである。そして今回の吉作でのデイサービスの廃止は、吉作でのショートステイの廃止と共に、朝日ケアの歴史に深く刻まれることになるであろう。

宇奈月中学校での課外授業

2013.07.25

6月28日に、黒部市立宇奈月中学校と宇奈月国際会館「セレネ」で栃木県、群馬、新潟、中部そして富山の5つの経済同友会の教育担当委員会交流会が「課外授業講師派遣」をテーマに行われ、宇奈月中学校での「授業参観」から交流会がスタートした。
 1年生を私、2年生を射水市の牧田組の牧田社長、3年生を宇奈月町の大高建設の大橋社長と、偶然にも建設会社の社長3人が講師を務めたが、私の授業のテーマは3月の黒部市立生地小学校6年生の課外授業と同じ「夢をもって」とした。
 美術室で1年生2クラスの生徒に、生地小学校の授業で使ったパワーポイントに手を加えたものを使って授業を行ったが、生徒は皆さんとても真剣に聴いてくれ、ネコや犬の面白い写真や私の駄洒落にもしっかり反応してくれたので、気持ちよく13:45から14:30までの45分間の授業を行うことが出来た。
 毎回のことではあるが、課外授業を受けての生徒の感想文を頂いた。今回は1年生45人全員の感想文だった。感想文の最後に書かれている「いろいろとためになる話をしてくださって、勉強にもなったし、楽しかったし、おもしろかったです」、「まだわからないこともあるので、ぜひもう一度来てください」、「時間があればもう少しお話を聞きたかったです」に授業の内容や進め方が間違っていなかったと確認した。また、「私は勉強が苦手です。でも将来の夢があるし、大人になるために勉強しなくちゃいけない。勉強がいやになった時は、林さんの話を思い出して勉強にはげんで、人に役に立つような大人になっていきたいです」や、「ぼくも自衛官になりたいのですが、林さんのおかげでもっと夢をかなえられるように進んでいきたいと思いました」、「林さんの夢にも感動しました。“富山の役に立つ”という夢でした。今もその夢に向かって頑張ってらっしゃるのがよく伝わってきました。私も夢に向かって一歩一歩進んでいきたいと思います」などの言葉に、私の授業テーマが生徒たちに伝わってよかったと思った。そして、何人かからの「これからもお仕事、がんばってください」、「応援してます」に、素直に「ハイ」と心の中で返事した。
 中にこんな感想文があった。書き出しの「今日の勉強でよくわかりました。みんなも入るかどうかわからないけど僕は入りたいです。」に、何に入るのだろうと思いながら読み進むと、「入ったらとするとせいいっぱいやりとげて、林さんに認めてもらうまで絶対あきらめないから、林さんがいる会社に行ってがんばってやっていきたいと思います。」と続き、さらに「でもまだまだなので、もっとがんばって知識をもっと取り入れてから林さんのいる会社に行きたいと思います」に、文章は少し分かりづらいけれども、当社に入社したいのだと知った。
 これまで多くの感想文を読んだがこんな感想は初めてであり、彼はなぜそう思ったのだろうかと考えた。今回のスライドには、当社が施工した工事の事例として、これまでの課外授業で写真で紹介した土川橋架け替え、富山大橋橋脚・橋台・右岸函渠工・橋面舗装、中島大橋橋脚耐震補強などに加えて、富山空港の滑走路の写真と空港の駐機場に停まっている旅客機の写真を載せた。この空港の写真が功を奏して生徒の印象に残ったのか、「富山空港の滑走路や富山大橋を作ったり、すごい方とわかりました」、「富山大橋や空港の滑走路などあんなに大きくて丈夫な物を作るのはすごくかっこいいです!」などと、何人かが滑走路のことを書いていた。当社に入社希望のこの生徒も、当社が施工した滑走路にあこがれたのかと思った。
 しかし、「社長ってすごくこわいイメージがあったけど、とても分かりやすく楽しく話して頂きました」や「林和夫さんはどんな人かなあと最初は思っていたけど、優しくてユニークな人だったので安心しました」、「さわやか社長の写真で、思わず笑ってしまいました」、「今日のお話はとても役に立つお話で、私も林さんのようになりたいなと思いました」などの感想のように、この生徒も私のキャラクターに惹かれたのかなと、うぬぼれてもみた。
以前D所長から、「社長が学校で課外授業をしているのなら、生徒たちに建設業に入るように勧めて欲しい」と言われたことがあるが、自ら当社に入りたいと思った生徒が現れたことは、D所長の要望に十分応えたことになろう。
 今回の宇奈月中学校の課外授業で、他人の話ではなく、自分自身の夢を、その夢に向かう姿を真剣に話すことが、生徒に共感を与えられることを実感した。「他のお客さんも楽しそうで私もうれしかったです」とのことなので、授業参観した富山経済同友会のメンバーにも、感想を聞いてみたい。

中央タクシー

2013.06.27

6月14日に、富山法人会のセミナーに出かけた。最近はすっかりご無沙汰していたこの法人会セミナーだが、3月に回覧されてきた、4月から6月までの法人会セミナーの講師プロフィール一覧を見て是非出席したいと思い、すぐに予定表に書き込んだ。6月の講師として、「お客様が感動し社員が躍動する会社づくり」というテーマで、長野市の中央タクシー株式会社の宇都宮会長が載っていたからだ。
「中央タクシー」という社名を見て、講師略歴には書いてなかったが、私が読んだ「日本でいちばん大切にしたい会社3」(法政大学大学院政策創造研究科教授 坂本光司 著)で取り上げられていた会社だと直感した。
 私が坂本教授を知ったのは、2010年1月に行われた富山商工会議所の新春会員講演会だったが、その後、昨年の3月31日(土)の朝日新聞「be」欄「フロントランナー」に坂本教授が登場した。「フロントランナー」のインタビュー記事には、

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「根底には「『正しい経営』をしている会社に光をあてたい」という思いがある。「正しさ」の基準はシンプル。会社に関わる「5人」を重視する経営だという。社員とその家族、外注先・下請け企業、顧客、地域社会、最後に株主。この優先順位にこそ意味がある、と強調する。「顧客のことを考えるより、社員の幸せを真っ先に考えるのが経営者の仕事」と言い切る。「社員第一主義なんてきれいごと」という声には、こう反論する。「社員を大切にしている会社はどこも好業績です。私が語っていることは、理想でも理論でもない。この目で見てきた現実なのです」
(インターネットで記事を検索)

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と書かれていた。この記事を読んだときの私の感想は、会社に関わる「5人」は知っているが、優先順位をつけるとするなら、「顧客満足」という言葉があるくらいだから、当然顧客が一番だろう。だからわが社のISOの品質目標に「私たちの仕事はお客様に満足してもらうこと」と最初に書いているのだ。また「顧客満足は従業員満足」ということも学んだが、それは、「従業員満足がない顧客満足はない」と、顧客満足と従業員満足を同列に捉える言い方であり、「社員第一主義」はないだろう、というものであった。
 そこで坂本教授の考え方をしっかり知ろうと思って、シリーズ合計55万部突破という「日本でいちばん大切にしたい会社」を遅まきながら購入した。5社が紹介されていたが、こんな会社が日本にあったのかと驚くばかりだった。最初に紹介されている会社は、社員の7割が障害者で「障害者の方々がほめられ、役に立ち、必要とされる場をつくりたい」という、粉の飛ばないダストレスチョークを作っている日本理化学工業。読んでいて思わず目頭が熱くなった。後の4つの会社の話も、それぞれ感動、感激しながら読んだ。
 しかし、わが社のような公共事業がメインの建設会社では、真のお客である納税者・地域住民の姿が見えにくく、直接の発注者である役所を向いての仕事にならざるを得ない。だから、顧客第一ではなく利益確保に走ることになりがちとなる。従って顧客第一の前に社員第一主義があるべきだと言われても、それが建設業で通用するとはどうしても考えられなかった。しかし私のこの考え方は、坂本教授に言わせると、「問題は内ではなく外」と嘆き悲しむ、被害者意識に凝り固まった他力本願タイプの中小企業の“5つの言い訳”のひとつ「業種・業態が悪い」と言っていることになるのであろう。
 その後、「日本でいちばん大切にしたい会社3」に、島根電工という会社が取り上げられていると知り、わが社が電気設備工事もしていることからどんな会社な
のか知りたくて、この本を買った。その中に中央タクシーも取り上げられていたのである。
 中央タクシーの創業者である宇都宮会長は、私と同じ1947年生まれであった。たくさんの感動的なエピソード(中央タクシー物語)を話されたが、ここで紹介するだけの紙面は無い。しかし、スライドに映し出された理念と憲章はどうしても伝えたいので、スマホで撮った写真を見ながら、次に書き記そう。
 中央タクシーの理念は、【お客様主義】で、「お客様が先、利益は後」に続いて、「わが社の永遠にして不滅の理念である。理念とは、すべてにおける行動基準・行動規範である。つまり、理念なきところに行動はない」と記されていた。そして憲章は、「我々は長野市民の市民生活にとって必要不可欠であり、さらに交通弱者・高齢者にとってなくてはならない存在となる。私たちに接することによって、〈生きる勇気〉が湧き、<幸せ〉を感じ、〈親切〉の素晴らしさを知ってくださる、多くの方々がいらっしゃる。
 私たちはお客さまにとって、いつまでも、この上なく、<なくてはならない人〉としてあり続け、この人がいてくれてほんとうに助かります、と思わず涙とともに喜んでいただける、わが社はそんな人々によってのみ構成されている会社です」とあった。
 宇都宮会長が話した「中央タクシー物語」は、まさしく「お客様が先、利益は後」という理念の実践であり、憲章は「中央タクシー物語」から生まれたのだと知った。
ひるがえって、わが社はどうだろうか?社長の私はどう考えているのだろうか?
 老人介護事業を営む朝日ケアでは、北代のあさひホームの近所にデイサービス施設が次々に出来て競争が激化し、デイサービスの利用者さんが減り、5月末決算が危うくなっている。そこで、今月初めの運営会議で私は、「利益は収入から支出を引いたものだから、利益を上げるためには、収入を増やすか支出を減らすかである。支出の大部分を占めるのが人件費だからといって、私は給料を下げるとか、福利厚生水準を下げようとは思わない。他業種に比べて重労働の割には給料が安い介護業界において、他社より見劣りする給料や福利厚生制度にする気はない。だから、年間休日日数も今年4月から大幅に増やした。従って収入を上げるには、デイサービスの利用者さんを増やすしかない。そのためになすべきことは、新聞広告での宣伝ではなくて、“して当たり前”の普通水準のサービスではなく、文字通り“有り難い”、他所では受けられないと思われるようなサービスをすること。それによって口コミでお客様が増える」と話した。老人介護事業を始めたときから、利益よりお客様へのサービス水準の向上を考えているという点では、中央タクシーの「お客様主義」に近いとは思う。
 しかし朝日建設では、お客様のことを考えないわけではもちろん無いが、「お客様が先、利益は後」と考えて仕事をしているとは言えないだろう。また、坂本教授が言う「顧客のことを考えるより、社員の幸せを真っ先に考えるのが経営者の仕事」とは、私は考えてこなかった。
 今年の3月のコラム「夢をもって」で、建設工事を通して世の中の役に立つ(ふるさと富山を発展させる)という夢を実現するためには、「三方良しの公共事業改革」で富山の公共事業が行われるという理想を掲げ、そのために、発注者と施工者に「三方良しの公共事業改革」をしっかり理解させるための勉強会やワークショップを行うという計画をたて、それを実行することで夢が成功すると書いている。
 しかし、今回、中央タクシーの宇都宮会長から直に「お客様が先、利益は後」の実例の数々を聞いて思ったのは、私の夢(=経営に対する想い、理念)を実現するための私自身の行動がまだまだ生ぬるいということであった。社員に対して、「もっと限界まで考えてみろ!」と常々言っているのに、自分自身が限界まで考え、限界まで実行しているとはとても言えない。こんなことでは、「三方良しの公共事業改革」を実現できないと思った。
 「ふるさと富山を発展させる」という想い・理念を社員と一緒にかなえるための方策が「三方良しの公共事業改革」であり、これからは「三方良しの公共事業改革」の一点に集中して経営に当たることで、結果として「社員の幸せ」になれば良いと、今は考えている。