先月のコラムで、「今年の新年式で発表した今年度の経営指針の第一番目は「社員教育の徹底」であり、この実践として、(1)<中略>、(2)(一社)日本経営協会専任講師 濱岸末雄氏による社員全員対象の能力開発・向上セミナー「職業能力評価基準の活用」の開催 開催日:2015年5月15日(金)16日(土)を掲げた。(2)の社内セミナーの企画は、昨年11月に濱岸講師による職業能力開発推進者講習(「職業能力評価基準」の活用)に参加したことが引き金になったのだが、<後略>」と書いた。
社員全員対象の社内セミナーの開催日程5月15日(金)16日(土)は、昨年12月初めに、私が濱岸講師の窓口となる富山県職業能力開発協会と打合せの上決めていたのだが、12月20日の経営戦略会議でメンバーに次回会議までに検討するよう指示した今年4月からの休日カレンダーの叩き台では、5月16日の土曜日は工事・工場部門は出勤日だが本社は休日になっていた。それを翌週26日の同会議で、Dさんから出された「土曜日の研修は全社員出席なのだから、全社出勤日にすればよいのではないか」という意見を取り入れて全社出勤日とした。私がDさんの修正案に即座に賛同したのは、本社を休日にしたら、休業土曜日なのに出勤して研修に参加するのだから、いつか代休を取ろうという気持ちが本社の社員に芽生えるかも知れないと思ったこと、また、土曜日を全社出勤日とすることで、全社員に金曜日と土曜日の両日は実務を離れ仕事として研修に参加するのだという意識を強められるだろうと思ったからだ。
さて、あっと言う間に新年式から4ヶ月が過ぎ、濱岸講師から研修会の資料とプログラムが送られてきた。プログラムには、初日のスタートとして、私の20分間の「社長講話」が設けられていた。20分間も時間をもらえるのなら、私がなぜ全社員が一堂に会してのこの研修会をやろうと考えたかをパワーポイントを使ってしっかり説明することにした。
講話では、まず「人材育成」は、当社の経営理念の2番目「人は経費ではなく資源」から経営方針として導き出されたものであり、この「人材育成」という経営方針に基づく戦略の一つとして「ヤル気の出る賃金制度の活用」という戦略が生まれ、この「ヤル気の出る賃金制度の活用」という戦略の下に「適切な人事考課」という戦術があるということを話した。
次に、なぜ「人材育成」という経営方針に「人事考課」という戦術なのかということを話した。それは40年前にさかのぼる。私が昭和50年に当社に入社した時は、経理のことは知らないことばかりだったので、参考書を買ってきて一から簿記の勉強を始めたりしていたが、人事考課についても勉強しようと、その年の12月に日本の賃金システム研究の第一人者である楠田丘(くすだ きゅう)さんが講師の、1泊2日の人事考課セミナーに参加した。その時に聞いた「人事考課は、給料や賞与を決めるためにだけ使うのではなく、社員教育に使ってこそ意味がある」という、その後ずっと心に留めている言葉が、「人材育成」という経営方針に「人事考課」という戦術を当然のこととして結びつけたのである。
さらに、2006年に導入した、田中方式の「ヤル気の出る賃金制度」における格付けの変更は相対評価に偏っていて、個々人の格付けをどうすれば上げることができるかを明確に示すことが出来ていないし、人事考課の意味が分かっている管理職が少なく、人事考課が形骸化していると思っていたので、今回の「目標管理・人事考課を正しく理解するために」という研修会を行うことにしたと話を進めた。
なぜ全員参加にしたかという理由も話した。楠田丘さんの流れを汲む濱岸講師が、昨年11月の講習会で、「人事考課は考課者(考課する側の者)だけが学べばよいというものではなく、被考課者(考課される側の者)も、自分がどのようにして考課されるのかを知っておくべきだと」言われ、なるほどと思ったからである。
講話の内容を考えているうちに、全員参加の研修会は、当社の創業75年の歴史の中で初めてのことであり、それなら今回の研修を「創業75周年記念全社員研修会」と命名しようと思いついた。我ながら良い思いつきだと自画自賛している。
2日間にわたる研修会は、普段研修の機会の少ない社員にとっては相当きつかったと思うが、濱岸講師の研修はユーモアを交えながら非常に分かりやすく、かつ人事考課の本質をキチンと押さえた有意義なものであったと思う。「昨年のセミナーより面白い」と濱岸さんに言ったら、昨年のセミナーは「職業能力評価基準の活用」というテーマだったので、どうしても職業能力評価基準の作成を盛り込まねばならず、そのことに時間を取られ面白味も欠いたと言われた。
皆さんは今回の研修で、どんなことが印象に残っているだろうか。私が特に印象に残っているのは、職能要件書(キャリアパス)における「一般職は作業改善、監督職(係長)は業務改善、監理職(課長)は職種・職務改革、管理職(部長)は事業革新、そして経営職は経営変革」という、改善、改革、革新、変革という言葉の使い分けと、アドラーの心理学を日本語で表現した「逃げて悩むな!直面して困れ!」の解説である。「悩」という漢字は心(立心偏)である心臓と脳で出来ていて身体と一体だから、問題から逃げようとしても悩むだけで逃げ切れない、そして「困」という字は、木が囲みの中にあって伸び悩みこまる意味(新漢語林より)だから、口という囲みを取り払って日なたにすれば木は成長するということ。問題が起きたら、悩んで逃げたらダメで、真正面から既成概念を取り払って向き合うことが大切ということなのだろう。
また、人材、人財、人在、人罪は以前から知っていたし、人剤は昨年の濱岸講師の研修で知ったが、人材⇒人財⇒人剤⇒人材⇒人財⇒人剤と人は変わっていくということや、人剤から不要な人在やその先の人罪にならないようにすることが大事だということは新しい学びであった。
その他にも、若貴兄弟を例にした「人は誰もが無能レベルまで出世できる」も印象に残っている。講師の「若乃花は横綱になってはいけなかった。横綱に推挙されても断るべきだった。」に合点した。
昨年11月のこのコラム「2040年に向けてなすべきこと」の最後は、『(創業100周年の)2040年に向かってなすべきことの基礎は常に「人材育成」であり、そのための優れた人事考課制度の構築と実践だと確信している。』で締めくくっている。
私は今回の「創業75周年記念全社員研修会」を通して、創業100周年の2040年に向かってこれから行う人材育成、優れた人事考課制度の構築の方法が具体的に見えてきた。まずはロータスノーツ上に、考課者(直属上司)と被考課者(本人)とが記入する〔行動観察指導記録〕のフォームを作成すること、そして、期待(目標)像としての仕事像(職種・職務基準)と能力像(職階・職能要件)を成文化することのふたつを、4月の組織改革で新設した経営企画室の教育関係チームメンバーを中心に作成しようと決めた。
仕事って楽しいな!!