2014年12月のこのコラム「来年の介護保険改定に異議あり」は、「2000年から始まった介護保険制度では、介護サービスを提供する事業者が対価として受け取る公定価格の介護報酬が3年ごとに見直しがされ、来年は5回目の改定である。」と始まり、後半で「週刊ダイヤモンド11/18の記事を読み、驚きが怒りに変わった。10月8日に、財務相の諮問機関が介護報酬を6%程度引き下げるよう厚生労働省に求めたとあり、また、財務省が、介護の全サービスの利益率の加重平均が8%程度で、中小企業の売上高純利益率の平均2.2%より高いという理由で、利益率の高い事業の単価を下げるように主張しているという。さらに、財務省は「6%引き下げは、あくまで介護サービス平均」と言い、引き上げるサービスがある一方で、6%以上引き下げられるものもあるとしているとのことだ。」と書き、「利益率は各企業で違っていて当たり前であり、その平均値をサービス単価切り下げの根拠にするのは、顧客であるお年寄りやそのご家族に満足して頂きながら、同時に企業を継続するためにちゃんと利益を上げようという、まともな介護事業経営者なら普通の考え方に冷や水を浴びせるようなものだ。処遇改善への加算などを拡充して人手不足を解消しようとしても、介護事業者の事業自体が悪化して介護職員の処遇が引き下げられたり、経営意欲を失って廃業や経営破たんしたりするようになれば、本末転倒である。こんな自明のことが、財務省や厚生労働省の役人には分からないのだろうか。腹立たしい限りだ。」と締めくくっています。
その後、財務省と厚生労働省の駆け引きを経て昨年4月の介護保険改定で、9年ぶりに実質4.47%、処遇改善加算などを加えても2.27%という介護報酬の大幅マイナスがなされました。
朝日建設の子会社として平成14年に設立した(有)朝日ケアは、平成15年から「あさひホーム」、平成18年から「あさひホーム吉作」を運営する中で、平成22年から平成26年までの5年間、それまでの赤字を脱して、利益額は毎年減少し利益率は1%そこそこでしたが黒字でした。厚労省による経営実態調査、特養の利益率8.7%でディサービスのそれが10.6%(平成26年3月時点)は、どんな調査に基づいているのか実に怪しい数字だと思っています。
しかし残念ながら昨年の5月末決算で、再び営業赤字に転落してしまいました。介護報酬の改定が4月で朝日ケアの決算が5月末ですから、介護報酬引き下げの影響は2ヶ月間だけでしたのに赤字になったのです。平成27年度の月次決算では、昨年はスタートの6月からずっと赤字が続き、今年5月末の本決算では昨年を大幅に上回る赤字が避けられそうにありません。
さて、昨年9月に「介護事業者の倒産最多 今年1〜8月、55件 報酬減や人手不足響く」という見出しの新聞記事を読み、私のコラムで指摘した「廃業や経営破たんしたりするようになれば、本末転倒」の通りに進んでいると思いました。さらに12月には、「介護報酬が今年4月から9年ぶりに引き下げられたなか、2015年1-11月の「老人福祉・介護事業」の倒産は66件に達した。すでに前年の年間件数(54件)を上回り、介護保険法が施行された2000年以降では、過去最悪ペースをたどっている。介護職員の深刻な人手不足という難題を抱えながら、業界には厳しい淘汰の波が押し寄せている。」と報道されました。それに対して厚生労働省は、「今回の報酬改定が事業者の倒産につながったかどうか判断できないが、経営への影響を調査し、3年後の報酬改定に反映させていきたい」(NHK)とのこと。次の介護報酬改定の2018年までに多くの介護事業者が倒産し、介護保険制度そのものが成り立たなくなるとは考えないのでしょうか。自分で介護をしたこともなく、介護現場の現実も知らない厚生労働省の役人の能天気振りにあきれてしまいました。お年寄りや家族のために介護保険制度を考えているとはとても思えません。
また、安倍首相が新たに掲げた「介護離職ゼロ」を達成するために、20年代初頭までに合計50万人分以上のサービス基盤を整備するという報道にもあきれました。新たに介護施設を作っても、人員基準数の介護職員が採用できず開業できない施設の多発が問題になっているのに、施設を増やしてもそこで働く介護職をどうやって確保するというのでしょうか。
朝日ケアのホームページに「チョットいい話♪」というコーナーがあり、「あさひホーム」と「あさひホーム吉作」が、利用者さんやそのご家族からいかに喜ばれ感謝されているかがわかる話も掲載されています。あさひホームのサービスを全般的にご利用頂いているN様の娘様からのコメント「あさひホームはディサービス、ショートスティ、訪問介護、グループホームと連携がとれていて安心して任せられます。またスタッフのレベルも高く、些細な事も教えて下さり気付かされる事も多いです。ついつい頼ってしまいますがこれからもよろしくお願いします。」に感激しました。感動的な話が他にもたくさん載っていますので、ぜひホームページをご覧ください。
最後に、私がこれまで12年間介護事業の経営に携わってきて思うことを書きます。第二次世界大戦で、現在90代の大正生まれ、現在80代の昭和1桁生まれのお年寄りは、男性は兵士として戦い、女性は銃後を守り、中等学校以上の生徒や学生は軍需産業や食糧増産に動員されました。また大都市の学童は、地方に集団疎開しました。そして戦後の焼け跡からの復興は、今の80代、90代のお年寄りの力によるものです。私の母も、富山の大空襲で焼夷弾の降る中シンガーミシンをかついで逃げ回り、戦後そのミシンを使って、注文を受けて洋服を作り洋裁を教えることで、家計を助け父の仕事を助けていました。戦中戦後にご苦労されたお年寄りにとって、あさひホームをご利用される時間がハッピーであって欲しいと心から願っています。この私の願いにあさひホームの介護職員の皆さんは、時にはここまでするのかと思うような介護で応えてくれています。感謝の念に耐えません。
社会保障支出を抑制することしか考えない財務省と、介護事業所の実情を知らずに介護報酬をいじくり回す厚生労働省とに翻弄されている介護事業経営ですが、私は前述の思いを忘れずに、これからも知恵を絞って朝日ケアの経営に当たります。そのために経営者が必要なのですから。