2月14日の日経新聞1面を見た途端、右下の記事の見出し「介護業の定昇導入 助成 最大200万円、人手確保狙う 厚労省」が目に飛び込んできました。
記事は「厚生労働省は従業員の賃金に定期昇給制度を導入した介護事業者に対する助成金制度を4月に設ける。制度を導入し、離職率が下がった事業所には最大で200万円を支給する。介護事業者の4〜5割には定期昇給制度がなく、職員は長く勤めても賃金が上がりにくい。年功に応じて賃金を上げる定昇を普及させ、人手不足が深刻な介護職員の確保につなげる。 助成金は3段階に分けて支給する。定昇制度を導入した時点でまず50万円。1年後の離職率が下がっていれば60万円、2年後に離職率が上がっていなければさらに90万円を渡す。(以下略)」とここまで読んで唖然とし、次に腹の底から憤りが湧いてきました。
私は2005年(平成17年)10月、朝日建設の全社員に対して、翌年4月から実施する、田中久夫著「社長として断固なすべき6つの仕事」の第四章「やる気にさせる賃金決定」を基本にした新しい賃金体系の導入についての説明文書を配布しましたが、その中で8項目の賃金体系の基本的考え方を示しています。
(1)年齢とか勤続年数とか学歴とか性別とかによって、賃金を差別しない。
(2)能力を発揮した人、努力した人、会社に貢献した人には、それに相応した給与や賞与を支給する。
(3)、(4)、(5) (略)
(6)一年で自動的に上がる定期昇給は廃止し、社会的な経済変動(物価変動)はベースアップで対応する。したがってベースダウンもありうる。
(7)本給(18ランク)の改定は昇格(個人の実績によって格付を上げる)による昇給(本給のみ)、降格(個人の実績によって格付を下げる)による減給(本給のみ)を重点にする。
(8) (略)
その後、多少の修正は行いましたが、この基本は変えていません。
そもそも定期昇給制度とは、企業が従業員の昇給を実施する際に、従業員の年齢や勤続年数を基準として、一般的には年齢が1歳、または勤続年数が1年上がるごとに基本給はアップします。このことから毎年自動的に定まった金額へと昇給されていく仕組みのことで、昭和初期から多くの日本企業においての昇給の制度として導入されてきました。
この背景には、一つには、生計費は年を追い家族人員がふえるにつれ上がらざるをえないから、賃金水準の低かった時代には賃金がこのような形をとらざるをえなかったということ、二つめには、技術革新が遅かった時代には、工場で働く技能職は、年齢が上がり勤続年数が上がれば、仕事の習熟度が高まり能力も高まり仕事の成果も上がるという関係があったのです。
しかし今の時代に、年齢が上がり勤続年数が上がれば、仕事の習熟度が高まり能力も高まり仕事の成果も上がるとする年功序列制度を是と考えているのは、定期昇給制度というぬるま湯にドップリつかっている役人くらいでしょう。その霞が関の厚労省の役人が、離職率を下げるために定期昇給制度を導入するよう助成するというのです。
入所者3人を相次いで転落死させた川崎市の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」の介護職員は、殺人事件を起こす前に解雇すべきだったのです。私はあさひホームの介護職員に、「介護職に必要な3つのK」として、?お年寄りに対する共感力、?職場の仲間との協調・協力性、?介護や医療知識や技術の習得に対する向上心の3つを要求しています。これらに欠けた介護職員は、結果的にあさひホームを去っていきました。人材不足に悩む介護現場では、問題がある職員でも辞められたら日々の業務が回らなくなるということで、管理職が目をつぶりその職員を辞めさせられないという状況は分からないでもありません。しかしその結果、私の介護事業に対する経営理念が失われるのなら、事業を止めたほうがましだと思っています。
4月の給料改定に向けて、これから朝日建設でも朝日ケアでも賃金検討会を行いますが、厚労省の愚策を反面教師にして、民間企業としての賃金制度、賃金体系は時代の変化に対応し、また会社の経営理念に照らしてどのようにあるべきかを念頭に議論したいと思います。