富大での7年目の講義

2022.04.25

 2016年から富山大学経済学部で、富山新聞文化センターの寄付講座「現場の経営学:地域企業の経営者から学ぶ」の講師を務めていて、近年は、人文学部の学生も出席しています。新型コロナウイルス感染を避けることから、―昨年は前年の私の講義の録画を観てもらい、昨年は新田知事の講義の翌週4月21日(水)に2番バッターとしてオンラインで講義を行いました。今年も講師を依頼され、4月13日(水)にトップバッターを務めました。

       

 この講義の依頼は、代表講師の中村哲夫さんから今年の1月13日にショートメールで依頼され承諾していました。ところが4月12日(火)の正午前に中村さんからショートメール「明日、13日、富山大学での講義、宜しくお願いします」。私は「あらら⁈」、講義することを手帳にもサイボウズの予定にも記入していなくて、すっかり忘れていたのです。この日は1時半までロータリークラブの例会、3時半から5時まで安住町県庁前地区再開発協議会の定例会、その後6時から懇親会です。懇親会で飲まずに帰社して会社で講義の資料を作るという選択肢は呑兵衛の私にはなく、「明日は1時間ほどの本部長会議だけだから、それ以外の時間に資料を作ろう!」と開き直りました。

        

 13日の当日、朝6時過ぎに毎日の犬との散歩をしながら、講義のタイトルは一昨年までの「私の経営観」を昨年「経営者として46年」としたのでこれを踏襲して「経営者として47年」とし、講義の内容は、スライドの順番を変えることと新たに追加する内容を考えました。

      

 出社してからは昼食も取らずに16時までかかって作り上げたスライドを使って、16時40分から富山大学経済学部の301教室で講義を開始しました。スライドはこれまでのものをほぼ流用するものの順番を変え、最初に私個人の経歴と会社の近年の経営状況や工事実績などを紹介した後、新たに私が尊敬する3人として、アイバックの小沢社長、HALシステム設計の安中社長、そして故人ですが中村天風師について紹介しました。小沢社長の勉強会での学びから当社の経営理念が出来たこと、安中社長と知り合ったことでクッションゼロ(CZ)式原価管理や基幹業務システムのHAKRA(現ALDE)が導入できたこと、そして中村天風師が語る絶対積極(ぜったいせつぎょく)の精神を自分の信条としているとし、天風師が語ったいくつかの言葉を紹介しました。

        

 その後はこれまでのシナリオを使って、「アンパンマンマーチ」の歌詞の「何の為に生まれて何をして生きるのか」は生きる目的を問うているのであり、中村天風師の言葉「ばい菌一匹でも、目的無くこの世に出てきたものはない。」という言葉と、日野原重明先生の小学5年生への「いのちの授業」での「いのちとは時間であり、肝心なのはそれを有意義に使うこと」という話をして目的について考えます。そこから、働くという字は漢字ではなく、端・楽であり、端、周りの人を楽にする、即ち、他人の役に立つ、世の中の役に立つという意味の和字、国字だと解説し、私が作った方程式「有意義に生きる=働く」で締めくくりました。

        

 次にスライドは一転しこれまでの女性技術者採用の歴史を年表で映し出してから、Tさんと、一昨年退職したSさん(旧姓:Kさん)のインタビュー記事での彼女たちの建設工事の遣り甲斐についての言葉を紹介し、合わせて昨年8月から2カ月ごとに当社の社員が登場している新聞広告を、Tさん、Kさん、Iさん、Oさんの追加のスライドで見せました。それを受けて土木の意義を、Civil Engineerling(土木)、Infrasutructure(社会資本)、イギリスの天文学者ハーシェルが言った「I wish to leave this world better than I was born.」(われわれが死ぬときには、われわれが生まれたときより、世の中を少しなりともよくして往こうではないか)で説明しました。

        

 次に、毎回ですが吉田松陰の言葉「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。」を踏まえて、私の夢は2040年、私が93歳の時に行う朝日建設100周年パーティーに、2017年1月に生まれ23歳になっている初孫の「ゆき」に振袖を着せて出席し立派なスピーチをすること、理想は朝日建設がしっかり存続していて、今よりも立派な会社として世の中の役に立っていること、計画は3年ごとの中期経営計画を繰り返して、2039年(創業99周年)に至ること、実行は毎年確実に中期経営計画を進めることであるとし、中期経営計画とVISION2021での「3C」(Chance、Challenge、Change)を説明し、私が入社以来これまでに行ってきた多くのチャレンジの事例を紹介しました。

        

 最後に、今年の新入社員教育で「社員に求めること」として、私が愛してやまない映画「男はつらいよ」でフーテンの寅さんが語る人生語録を引用して、考えることと行動すること、そして再び中村天風師の言葉「この世、この時、人間に生まれてきたのは、人の役に立つために生まれてきたんだよ」を引いて、役にたつためには観察することの3つについて話して、17:50に講義を終えました。

      

 講義を終えての質問時間では人文学部の2年の女子学生から「ニートで引きこもりになっているような人は、世の中の役に立っているのか?」と質問されました。私は、植物人間状態だった母を病院に見舞ったときに私が発した言葉「こんなになって、なんで生きているのかな?」に対する女性看護師さんの「人間が生きているのには、必ず意味があります」という言葉で、小さい時から母が子供たちに注いでくれた愛情を私が思い返し感謝することができたことが、母が植物人間になっても生きている意味かと考えた。同様に、どういう環境でニートになったのか、江戸時代にはニートはいなかったと思うがなぜ現代ではニートが生まれるのかと、そのように社会の変化を考えさせてくれることが役に立っていると考えることもできるのではないかと答えました。

        

 帰り際に代表講師の中村さんから「今日の講義はスカッとしていて、これまでで一番良い出来でしたね」と言われ、私も、今回はなかなか良くできたと自己評価していたので、そうかと嬉しく思いました。これは、切羽詰まりながらも必死に内容の変更を考え、時間ギリギリまで、これでいいとせずに手を入れたことの結果だと思いました。「諦めが肝心」という言葉は、私の辞書から抹消しましょう。