2020.07.27

絶対積極

絶対積極(ぜったいせつぎょく)は、私が信奉する中村天風師の教えです。


 中村天風(なかむらてんぷう、1876年7月30日 – 1968年12月1日)は右翼団体玄洋社社員、大日本帝国陸軍の諜報員、日本の実業家、思想家、ヨガ行者、自己啓発講演家。天風会を創始し心身統一法を広めた。本名は中村三郎。


 学生時代に喧嘩で相手を刺殺(社長注:正当防衛)、日清日露戦争当時は軍事探偵(社長注:スパイ)として活動するも、戦後結核にかかり、ニューソート作家の著作に感銘を受け渡米し、世界を遍歴。インドでのヨガ修行を経て健康を回復し悟りを得たとされる。日本に帰国後、一時は実業界で成功を収めるも、自身の経験と悟りを伝えるために講演活動を開始。中村天風の考え・活動に影響を受けた人々は、ヨガ関係は勿論であるが、その他にも東郷平八郎、原敬、北村西望、宇野千代、双葉山、広岡達朗など、実業界では松下幸之助、稲盛和夫など多くいる。近くは、大谷翔平などがいる。(出典:ウィキペディア)


 私が中村天風を知ったのは、大学の経済学部同期生で、柔道部でも一緒に稽古した親友の和田清さんからの年賀状でした。和田さんは非常な読書家で、学生時代にもいろんな本を勧めてくれましたが、十数年前の年賀状に「宇野千代の天風先生座談がおもしろいよ」と書いてあったのです。早速「天風先生座談」を購入して読んだところ、中村天風というこんなすごい人物が日本にいたのか!と驚きました。そこで、1万円ほどの分厚い中村天風の本「成功の実現」を購入しました。また、「成功の実現」と同じ発行元から、天風の言葉が毎週一つずつ書かれ、巻末には「天風成功金言・至言100選」や「日常の心得」が印刷されている「成功手帳」も毎年購入し、毎日、一日の行動をメモしています。


 また、講師を招いて中村天風について学び、心身統一法の訓練もしている北陸天風会という会に何度か参加して知識を深め、不思議な体験もしました。その会で買い求めたのが、中村天風が語る運命をひらく言葉を収録した「ほんとうの心の力」、そして、天風に出会った人、天風から直に教えを受けた人などの文章を綴った「哲人 あの日あの時」です。天風について知れば知るほど、このような人のことを本当の「哲人」と言うのだと確信しました。そして、中学校で行っている課外授業や、富山大学経済学部での講義「経営学の現場:地域企業の経営者から学ぶ」で、また、新入社員や会社訪問の学生に対して、天風の言葉「ばい菌一匹でも、目的無くこの世に出てきたものはない」と「この世、この時、人間に生まれてきたのは、人の世の役に立つために生まれてきたんだよ」を、必ず紹介しています。


 私は、40歳から50歳代には時には後ろ向きな考え方をしていた自分が、中村天風を知ってから、自分の生き方、経営のやり方を前向きに変えられたと思っています。天風は心(思考、感情)を積極と消極の2種類に明快に大別し、怒り、怖れ、悲しみ、憎悪、恨み、嫉妬、悩み、迷い、心配などの消極心は「命の力」(心身の活動力の源泉)を消耗し、希望、期待、歓喜、感謝、安心などの積極心は「命の力」を旺盛にすると言っています。さらに「積極的な心(精神)」というものには、「相対積極」と「絶対積極」があると説いています。私はこの違いが分かり難かったのですが、北陸天風会で聞いた絶対積極についての説明で腑に落ちました。講師は、「松下幸之助に、真空管のシェアが日本一になったと担当の部長が報告した時、部長は幸之助が喜んでくれるだろうと思っていたのにそうではなかった。これは、日本一という相対的なことではなく、松下電器が作る真空管が人々の暮らしに本当に役立ってほしいという思いがあったからではないだろうか」という説明でした。


 当社の絶対積極の具体例を挙げてみましょう。まず、クッションゼロ(CZ)式原価管理です。「不確定原価に予算をつけない」は、「ひとつとして同じ工事は無いのに、役所の歩掛を当社の工事に当てはめようと考えるのは相対的な考え方であり認めないし、プラスアルファは認めず、これでもか、これでもかと限界原価を追い求める手法は、担当者に積極的な気持ちがなければできるはずがありません。

 
一昨年から課長職以上の社員でトライアルしてきた「あしたのチーム」式人事評価も、本人の評価を他人と相対的に比べるのではなく、本人と上司が話し合いの上で決めた行動目標を、3カ月ごとに達成したか、しなかったかを本人と上司が面談して絶対評価するものであり、普通という中間の評価がある5段階評価ではなくて評価ランクが4段階のこの評価方式では、積極的に行動しない限り、評価は2(出来なかった)か、1(全く出来なかった)にしかなりません。


 また、当社の経営理念では、他社の経営理念で見かける「〇〇で、ナンバーワンを目指す」といった相対的な文言はなく、「世の中の役に立つ」という絶対的な思いが示されています。2番目の「人を成長する資源と考える」も、あくまでその社員なりの絶対的成長であって、この思いが、前述の「あしたのチーム」式人事評価を全社展開するという今期の経営戦略につながっています。


 最後に、「哲人 あの日あの時」に書かれていた天風先生のエピソードの中で、特に記憶に残っている、家が旅館を経営していた人の思い出を紹介します。この人が大学生の時、泊まっていた先生と将棋を指したが、先生はたいへん強くて角を落としてもらってもなかなか勝てない。「いや、また負けてしまった」と言うと、先生はこの人の顔をじっと見て、「また、負けましたという言葉は訂正しなさい。同じ言うなら、先生の勝ちだ。この次は僕が勝つ、とね」。そして、「自分のイメージをダウンさせる言葉は人生のあらゆる場合にも絶対使わないこと、自他を共に勇気づける言葉を使いなさい」。そして、先生はこの人の父とよく碁を打っておられたが、先生が負けた時は「うん、おぬしの勝ちだね」と言われ、ご自分が負けたとは決して言われなかったという思い出です。


 社員の皆さん、「絶対積極」で生きてください。