コラムのタイトルは、藤井聡京都大学教授が昨年10月に出版した本の書名である。
この本の帯の表紙側には、“「コンクリートから人へ」じゃ、国が滅びる!”と書かれ、「あなたの常識がくつがえる」として、*「道路不要論」は数字の詐術、*財政赤字の犯人は公共事業じゃない、*誰も書かない八ッ場ダムが必要な理由、*道路渋滞で年12兆円の損、*シャッター街化を止める秘策は何かetc と興味を引かれる言葉が並び、裏表紙側には、“日本の道路水準は、こんなに低い!”として、「自動車1万台あたりの高速道路の長さ」を示した棒グラフが印刷されている。
2009年9月に政権交代を果たした民主党は、衆議院選マニフェストで1.3兆円の公共事業費を2013年度までに削減すると表明しており、2010年度予算で公共事業費は過去最大の前年比18.3%減の1兆2970億円削減され、約5.7兆円となった。前原誠司国土交通大臣(当時)は、マニフェストの公約を1年で達成したのだから 11年度予算は10年度と同額にすると言ったことを私は未だに忘れてはいない。
しかしその後の、子ども手当て、公立高校の授業料無償化、農業者個別所得補償などのバラマキ政策の財源を捻出するための事業仕分けが成果をあげたとはとても言えない状況から、本当に11年度の公共事業費予算は10年度と同額になるのだろうかと怪しんでいたら、案の定、8月末の概算要求で、各省庁は既存予算の1割削減を求められた。公共事業費はすでに大幅に減らしているとして、前原国土交通相(当時)は反発し、前年比横ばいで要求したものの、結局は前年比5.1%減の政府予算案となり、公共事業費は10年連続削減されてしまうことになった。政治家の言葉は、やはり当てにならないものである。
これでは当社の2011年の経営は一層厳しくなると覚悟を決め、わが社の新年度の経営を考える材料にと思い、 正月休みにこの本を読んだ。
著者は「はじめに」において、本書の結論は、「空港や港湾、道路をもっと増強しなければ、日本の国力はガタガタとなり、早晩、日本の経済も社会も文化も、今以上に衰退の一途をたどり、二度と立ち直れない国になってしまうだろう。今まさにあるべき公共事業を強力に推進することこそが、日本を救う手立てなのだ」と書いている。そして、「まずは、現状の世論で紹介されている「公共事業・不要論」が、いかなる意味で不当でナンセンスなものかを振り返るところから、はじめたいと思う」として、第一章「コンクリートから人へ」のウソで、まず、日本の公共事業の見直し論の引き金のひとつになった「日本の公共事業費が、異常に高い」というデータを示すグラフを検証している。そこでは、驚くべきことに、引用されている統計データが諸外国と日本では違っており、さらに諸外国が「2007年」の資料を利用し、日本だけが「2004年度」の資料を用いているとして、改めて同じ統計資料の同じ年度でグラフをつくると、日本の公共事業費は、先進諸外国の中でも突出して高いというわけではなく、むしろ、フランスのほうが高いくらいになることを証明している。さらに、本当に、「日本の道路は世界のトップレベル」なのか?と筆を進め、「可住地面積あたりの道路延長」というナンセンスな基準によって、日本が「世界に冠たる道路王国」であると主張され、「無意味な道路建設が止められないのは、道路事業で甘い汁を吸っている業者や政治家、官僚達が、自分の利権を守りたいからに違いないのだ」という論へとつなげられているが、そもそも「可住地面積あたりの道路延長」という基準自体が論理的に破綻しているのではないかと厳しい指摘がされている。
第二章から第七章まで、「豊かな街」をつくる、「橋」が落ちる、「日本の港」を守る、「ダム不要論」を問う、日本は道路が足りない、「巨大地震」に備える と、6つのテーマを一つ一つ数字をあげながら明快に解説されている。日本がこのままではダメになると、私も同感した。
そして第八章日本が財政破綻しない理由では、財務省が、国の債務残高(借金)が平成22年3月末時点で882兆9235億円となり、過去最大を更新したと発表し、ニュース報道は、国民一人当たりの借金も過去最悪の約693万円になり、700万円の大台に迫ったとして「日本政府は破綻する!」とあおる。しかし、国とは政府だけではなく家計も法人も皆含まれ、日本経済全体では対外純資産が247兆円あり、国民一人当たり約200万円ものオカネをよその外国に貸しているという状況にあると説く。そして、最終章の第九章が、本書の題名の公共事業が日本を救うである。
読み終えて、改めて建設業の重要な使命を認識し、地域のため、日本のためを忘れずに経営に当たらなければいけないとの思いを新たにした。
日本の政治がこのままでは、日本は確実に三流国家に堕ちるであろう。全国民の5%が本書を読めば、日本の政治が変わるのではないだろうか。ぜひ、読んでいただきたい。