富山県水墨美術館で7月15日から9月4日まで、前期と後期に分けて「コレクター福富太郎の眼(め) 昭和のキャバレー王が愛した絵画」展が開催されています。
この展覧会は、全国でキャバレーチェーンを展開して大成した実業家、福富太郎(1931~2018年)が自らの審美眼だけを頼りに買い求めた絵画を紹介していますが、これにちなんで、7月30日の北日本新聞に、「この沼、深きことかぎりなし」のタイトルで、私へのインタビュー記事が記者の署名記事として掲載されました。
この記事の冒頭には「美術品を集める醍醐味(だいごみ)や作品の楽しみ方は人それぞれということで、アートの「沼」にはまる県内コレクターに、関心を持ったきっかけや収集の魅力を聞いた」と書かれていて、3回シリーズの初回に取り上げられたのです。
この記事を書いたのは生活文化部の女性記者です。当社の玄関にかかっている県内在住の画家能島芳史さんの絵「宇宙船かぼちゃ号・メムリンク星雲」を毎朝出勤時に見ていて、私のことは彼女の知人である能島さんにコレクターとして紹介され、当社のホームページにある代表メールアドレスに取材依頼があったのです。
記事は「棟方志功の板画や浜口陽三の銅版画、現代美術家、李禹煥(リウファン)の抽象画…。応接間の壁にずらりと名品が並ぶ。」で始まり、横書きの「朝日建設社長 林和夫さん(75)」の下に書かれた「楽しむ心 母から子へ」のタイトルが目に入ります。その下の写真には応接室で棟方志功の板画を背にした私の写真、そして縦書きの「いい物が目を養う」のタイトルと会長室で熊谷守一のリトグラフ「猫」をもつサスペンダー姿の私の写真、さらに「目利きの底力感じた 福富太郎展を見て」の欄では竹久夢二の「かごめかごめ」の写真が載っています。
私はこの記事を読んで感心したのは、1時間ちょっとの取材の間にした盛り沢山の話から、女性記者が私という人間を以下の様に生き生きと描写してくれていることです。
・「この青、いいでしょう」と指さすのは難波田龍起(なんばたたつおき)の油彩画「聖夜」。深い青を基調とした画面の中に、見つめ合っているかのようにも見える2人の像がうっすらと浮かぶ。「描かれているものが何なのかよく分からなくても自然と想像が膨らむ。眺めているだけで落ち着くね」とほほ笑む。
・作品を所有したいと思うようになったのは亡き母、絹子さんの影響が大きい。絹子さんは知る人ぞ知る「目利き」で、(中略)「私が高校2年の時には弟と一緒に学校を休ませて、東京国立近代美術館に連れて行ったことがあった」と笑う。
・「母は時折、雑誌の『婦人画報』に載っている絵を切り抜き、額に入れて飾っていた」。印刷された絵画で心を慰める母親の姿が脳裏に焼き付いている。
・生前、絹子さんは「いい物を見ていれば、自然と目は養える」と語った。
母親の「眼」を受け継いだのは、長男で民芸品店「林ショップ」(富山市)を営む悠介さん(42)。林さんは美術品を購入するに当たり、悠介さんに相談することも多い。「母親が生きていたら、どんなに喜んで息子と美術鑑賞を楽しんだことか。隔世遺伝ってこういうことだね」と言う。
・母親や息子とは異なり、購入する時に作家名や金額を気にしてしまう“邪念”は拭いきれないが「絵を眺めて楽しめる心は母親譲りだと思う」。
なお、「この沼、深きことかぎりなし」の全体タイトルも彼女が考えたものですが、コレクションについて非常にうまく言い表していると感心しました。